ワケあり!
 渡部は、ボスも巻き込むと言った。

 親戚という意味なのか、はたまたマッドサイエンティストとしてか、もっと違うのか。

 想像できなさすぎて、絹は頭が痛くなってきた。

「巻き込まれて、命に関わったりしないでしょうね」

 帰り道。

 境内を出てしまえば、生臭い話をしてもいいのだろう。

 再び日傘を差しながら、絹は渡部に語りかけた。

「……」

 珍しく、彼が黙り込む。

 こら。

 質問に、いやな沈黙で答えないで欲しい。

「…どうだろう、おじさんがヘマやらなきゃ、大丈夫だと思うよ」

 沈黙の後に、しかし軽い声。

 そこは――自己責任なのね。

 絹は、眉を寄せた。

 余りの軽さに、悲壮感がないところがタチが悪い。

 さんざん絹を怖がらせることを言えば、彼女は頭に血が昇って、渡部に食ってかかるだろう。

 ボスを危険にさらすなんて、と。

 しかし、そんな感情の流れを、この男の言葉はぬるりと、ウナギのようにかわしていく。

 これもまた、悪党になるために必要な能力なのか。

「巻き込まれるのを、断る方法はあるの?」

 どうせ、ないと言われるだろうと思いつつも、絹はイヤミで聞いた。

「あるよ」

 なのに渡部は、あっさりと回避について肯定したのだ。

「おじさんが、宇宙にでも逃げていれば、さすがに巻き込めないかな」

 あははは。

 自分の言葉に、自分で笑い出す。

 絹の白目など、気づいてもいないかのように。

 ボス…ロケット作りましょう、ロケット。

 絹は、心の中のボスに向かって提案した。

 ボスの技術があれば、ロケットくらい作れそうだった。

 しかし。

 宇宙にチョウはいない。

 三兄弟も。

 だから、彼がロケットに乗り込むことはないだろう。

「宇宙ね…逆に、あなたを宇宙に送ってしまえば、巻き込まれることもないんじゃない?」

 やっぱり、ボスに一人乗り用ロケットを作ってもらおう。

 絹は隣の男に、皮肉と優雅をこめて微笑んでみた。
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