ワケあり!
 再び、青柳の家についたのは、もう日が西に傾きかけた頃だった。

 渡部が、のらりくらりと絹を違う辻にひっぱり回したからだ。

 いきなりいなくなったと思うと、わたあめ片手に帰ってきたり。

 しかし、絹はほだされたりはしない。

 本当の顔は、いま見せているものとは違うのだから。

 門をくぐると。

「渡部のボンーひさしぶり」

 突然、目の前の渡部が、誰かに抱きつかれた。

 その肩ごしから、知らない顔が絹を見ている。

 二十歳くらいだろうか。

 半端な長さの髪を、後ろで一つにしばっている。

 顔は面長で、シャープな印象を受ける。

 彼もまた、青柳のコーディネートベビィなのか。

「蒲生の若さん…いきなり偵察ですか」

 べりっと、張りつかれた男の身体を引き剥がし、やれやれと渡部がため息をつく。

「あったりまえ、柴田のおっちゃん、泡吹いてたぞ」

 はがされながらも、蒲生と呼ばれた男は絹から目を離さない。

「いいもん手にいれたなぁ、ボン…何? 殿への献上品?」

 しかし、彼女を目の前に、いきなり悪党全開のセリフだ。

 既に、彼の中では絹の人権がないのだろう。

「ちがいますよー…この子は、ただの祭観光」

 にっこりー。

 微笑む渡部に、絹は脳内チョップを食らわせる。

 献上品にしないのは当たり前として、強制的に連れてきておいて、余りの言い草だった。

「ふぅん…まあでも、ボンがそんな風に笑う時は、大体、悪いこと考えてる時だよなぁ」

 ふっふっふ。

 怪しげな笑いと同じタイミングで、渡部の肩を叩いて――蒲生は、絹の方へと回りこんできた。

「ボンの顔に飽きたら、お兄さんとこにおいでねー。高給優遇するよ~」

 絹は。

 これまた、裏の顔があるに違いない相手を前にして、照れもトキメキもなく、目を糸目にしていた。

「どちらも、お断りです」

 容赦ない一言に。

「ぶわっはっはっは」

 蒲生は、顔からはみ出すんじゃないかと思えるほど大きな口で、笑ってくださったのだった。
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