ワケあり!
 絹、将、高尾――三人仲良く、職員室への呼び出しだ。

 将は右手に包帯を巻き、高尾は左頬に大きなガーゼを貼り付けられている。

 影の薄い担任が、三人を眺めてぼやいた。

「ケンカ沙汰など、滅多にないのに」

 厄介事を起こしてくれるなとばかりに、ため息をつかれる。

 良家の子女の通う学校だ。

 変なモメ方になると、面倒な親がしゃしゃり出てくるのだろう。

 高尾の親なら、ウザそうだ。

「広井が、僕を殴ったんです」

 僕は被害者ですと、高尾がまず主張する。

 絹は、ちらりとも見ずに、それを聞いていた。

「はい、僕が殴りました…でも、それは、彼が絹さんを侮辱したからです」

 まっすぐに担任を見ながら、将はそう言い切った。

 気持ちはありがたいが、この担任には、その男気は通用しそうにない。

「侮辱……?」

 そして、絹に話が振られるのだ。

 どう言うべきか。

 絹は、言葉に迷っていた。

 全部を言うと、ボスの名前を出さなければならない。

 マイクで全て、家に伝わってしまうだろう。

 その件を、蒸し返したくなかったのだ。

「家庭のことを…」

 絹は、曖昧にそう言った。

「ふむ…しかし、たとえ侮辱があったとしても、殴るのは感心しないな」

 そう。

 どうあっても倫理上、悪者は将になってしまう。

 絹だって、あんな真似をするとは思ってなかったのだ。

「広井くんは、親御さんに来てもらうからそのつもりで」

 ハッと。

 担任の言葉に、絹はハッと顔を上げた。

 一筋の――光の道が見えたのだ。

 彼女は、高尾の前にさっと回った。

 いま、すべきなのは。

 バチーーーン!

 絹は、彼の無傷な右の頬を張った。

 その派手な音に、職員室の空気がシーーーンと静まり返る。

 彼女は、そのまま担任を振り返った。

「では、私も暴力を振るいましたので…一緒に保護者を呼んでください」

 呆然とする担任に、絹はにこりと微笑んだ。

 自分にできる、ボスへの精一杯のお詫びだった。
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