ワケあり!
「あわわ…わ…うおお」

 帰り着いたら、ボスが居間を歩き回っていた。

 天井を向いたり床を向いたり、また天井を向いたり。

 絹は、声をかけられないまま、居間の入り口に立ち尽くした。

 あのボスが、すっかり動揺していたのだ。

 その事実に驚きもしたし、彼女がやらかしたことが、それほど大きかったということでもある。

「余計なことをしてくれたな」

 近づいてきた島村が、やや不機嫌を匂わせながら、絹の前に立つ。

 う。

 彼女は、判断を誤ったのだろうか。

 ああすれば、ボスとチョウの再会が、自然になされるはず。

 そう思ったのだが。

「おかげで、今日中にメドが立つはずだった、人体発電システムが流れたじゃないか」

 しかし、島村の不満は、学校でのことではなかった。

 彼女の言動により、ボスが動揺してしまい、研究が遅れたことだったのだ。

「すみませんボス…明日、ご足労願います」

 島村は、アテにならないので、絹はボスに直接声をかけた。

 彼は足を止めて、キッと強い眼差しで絹を見る。

 彼女は、覚悟をして言葉を待った。

「あああああ…チョウは私を覚えているだろうか! ネクタイは何色がいいだろう! スーツは!」

 だが。

 即座に崩れるように、オロオロと言葉を並べ立てる。

 絹はほっとしながら、笑みをこぼした。

 よかった、と。

 ボスはもう、高尾の言葉など忘れきっている様子だったのだ。

「あの高尾って男」

 ボスが浮かれながら、クローゼットに物色にいったのを見送った後、島村がぼそりと口を開く。

「父親が、先生の同級生だ。そのツテで、高坂って名字だけで、いちかばちか聞いてきたんだろう」

 引っ掛けに、簡単に乗るな。

 ウカツな絹を、責めているように感じた。

「ボス方面から、話がくるとは思ってなかったから……気をつける」

 しかし。

 あの男の父親なら――高校時代、さぞやボスとの相性は悪かっただろう。

 息子に、あんなことをしゃべるくらいなのだから。

 ということは。

 チョウとも同級生、というわけだ。

 もっと厳密に言えば――桜とも。
< 40 / 337 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop