ワケあり!
「いやー将くんは、一番いいね…同じクラスに投入して大正解」

 巧は、自分の体を抱きしめながら、身をくねらせていた。

 40前の男の所業とは思えない。

「先生、回りくどいことをせず、てっとり早く、拉致ったらどうですか?」

 島村は、時々ぼそっと怖いことを言う。

 いや、怖いと言えば助手君よりも、やはりボスが一番か。

「何を言い出す! 君は、人の愛で方を知らんのか!」

 そう。

 この気色悪さが、怖さの源だ。

「で、初日の接触は最高でしたけど、こっからどうします?」

 絹は、ソファにひっくりかえって、今度は靴下を脱ぎ始める。

 どうにも、あの学校は窮屈だった。

 男さえいなければ、今頃ここで下着一つになっていただろう。

 いや。

 本当は、いまも別に脱ぎ散らかしたところで、この二人が動じることはないだろう。

「そうだなあ、怒らせたり困らせたり泣かせたり…あぁ、想像するだけで、胸が締め付けられるよ!」

 そう。

 ボスは――ゲイだ。

 しかし、別に隣席の将自身に、狙いを定めているのではない。

 ボスが愛しているのは。

「ああ、やっぱりチョウの血は争えないな」

 そう。

 ボスの恋焦がれる相手は、広井 朝(チョウ)。

 彼の、父親だ。

 あの高校で二人は出会い、恋に落ち――るハズがなかった。

 広井朝は、完全なノンケだったのだ。

 そこから、ボスの歪んだ野望が始まるのである。

「さて、絹君…今後のことを話し合おうか…その前に」

 巧は、指を鳴らした。

 助手が、リモコンのスイッチをぴっと押す。

 瞬間。

 居間は、フロアごと下降し始めた。

「大事な話を盗聴されるといけない…研究室に行こう」

 歪んだ野望とやらのせいで、ボスはバカらしい肩書きを手に入れていた。

『マッド・サイエンティスト』
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