ワケあり!
 最初、ゲイでマッドサイエンティストだと聞かされた時は、頭のおかしいオヤジだと思った。

 しかし、一般住宅の地下に、無許可で研究所をこしらえる本物のイカレだと知ったら――いっそ、覚悟が決まったのだ。

 ここなら、生きていけるかもしれない、と。

 生きる。

 それは、彼女にとっては大事なキーワードだった。

 絹は、ボスに金で買われた手駒だったのだ。

 しかも。

『広井家の息子たちと、お近づきになっちゃおう』計画、のためだけに、だ。

 これが、笑わずにいられるか。

 ゲイの一念で、ボスは岩をも砕こうとしているのだ。

 高校時代、彼は広井朝の信頼を勝ち得、親友としていつも側にいる幸福を味わうことが出来た。

 しかし、卒業間近。

 ついに耐え切れなくなったボスは、彼に告白してしまったのである。

『すまん…親友のままじゃだめか?』

 分かりきっていた玉砕。

 それから、何かと朝が親友であろうと気遣う素振りを見せるのに耐え切れず、ボスは別の大学を選び、『この世界を滅ぼす力を手に入れてやる!』と、マッドサイエンティストなる怪しい職業についてしまったのだ。

 その勢いを二十年も持続したまま、にっくき記憶の眠る母校を破壊してやろうと、下見に訪ねたところ――中等部3年だった将と鉢合わせ。

 朝そっくりの彼に、ボスは母校破壊をやめ、別の計画を思い立ったのだ。

 それが、『仲良くなっちゃおう』計画、なのである。

 極端から極端に走る親父だ。

 絹は、その計画のために買われた。

 ごみためみたいに押し込められた、子供たちの中から、ボスに選ばれたのだ。

 絹は、行き場のない子供たちが収容される違法施設の、下から二番目のエリアにいた。

 人間として扱われないが、役に立つ駒にするために訓練される場所。

 そして、商品として売りに出されるのだ。

 絹は、その中でも学問はトップクラスだったし、運動神経もよかった。

 ボスの選んだ理由は、年齢・体型・髪質・頭脳・健康状態。

 それだけ条件が揃えばよかったらしい。

 たとえ――醜い顔をしていたとしても。

 そう。

 絹は、美しさとは無縁の、どうしようもない顔だったのだ。
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