ワケあり!
 施設に詰め込まれる前。

 絹だって普通の両親のもと、普通に生活をしていた。

 小学校二年まで、だったが。

 しかし、美醜というものの認識ができてはいた。

 周囲の子供たちも。

 そして彼女は、自分がブスであることを知り、ブスである不遇を知ったのだ。

 その後、両親が死に――変な人たちに捕まって、絹は怪しい施設に押し込められたのである。

 そんな醜い自分を、ボスが望んだ。

「大丈夫、顔なんてものは単なる飾りだ。私が、いくらでも飾ってやろう」

 その後、まるでサイボーグでも作るかのように、彼女のパーツは入れ替えられ、この顔が出来上がったのである。

 包帯が取れて、初めて鏡を見た時の絹の気持ちが分かるだろうか。

 鏡を放り出し、それが割れるのも気にせず、大笑いをしたのだ。

 本当に、ただの飾りだ、と。

 こんなに簡単に、入れ替えてしまえる。

 もう、過去の彼女を知る人間に会ったとしても、絶対に分からない。

 それどころか。

 この顔で、一つの財を築けそうなほどだ。

 大声で、狂気的に絹は気が済むまで笑った。

 そして、ボスのバカらしい計画に付き合うことに決めたのだ。

 朝の息子たちが通う学校に入学する、美しい女生徒として。

 入学が一ヶ月遅れたのは、このサイボーグ作業が、予定より遅れたためだった。

 しかし、遅れて入学した方が、注目を集められる――と、ボスはしたり顔だ。

 名前も変える。

 この絹という名前は、自分がつけた名前ではない。

 ボスがくれた名前だった。

 戸籍も、学校への入学手続きも、全て彼がその裏側の力をちょちょいっとネ、と使って作り上げてくれる。

 もはや、ここにいるのは――高坂 絹。

 それ以外の何者でもない。


 絹は、ボスを悪魔だと思った。

 こんな力を持つ人間が、神なはずはない。

 無償で、彼女に贈り物をするはずなどないのだ。

 これは、契約。

 そう。

 悪魔と交わした、魂を売り渡す契約だったのである。
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