ワケあり!
「これはすごいな…金星がまるで触れそうだ」

 チョウの感嘆の声に、絹はにこにこしてしまった。

 もっと驚いて。

 うきうきと絹も自分の望遠鏡を覗き込む。

 しかし。

 操作が分からない。

 こだわりのボスが、いろいろ仕込んでいるようで、絹は戸惑っていた。

 すると、手元がぽうっと明るくなった。

 見ると、宮野がペンライトを差し出していた。

「よかったら、使ってください」

 シートにペンライトにと、気配りのお嬢さまだ。

「ありがとう」

 この分だと、夜食も出てくるな。

 絹は、バッティングを予感した。

「ちょっと貸せ」

 ペンライトで、手元のスイッチやつまみをよく見ようとするより先に、望遠鏡は京に取られた。

 機械に詳しいのか、彼は勝手にどんどんいじっていく。

「うぉ…」

 京にしては珍しく、変な声をあげた。

「ちょっと、見てみろ」

 ペンライトを消し、促されるままに、絹はのぞきこんだ。

 赤茶けたものが見える。

 と、言うか、それしか見えない。

 レンズいっぱい赤茶けているだけ。

「いくぞ、よく見てろよ」

 覗いたままの彼女の横で、京が手を動かすと、カメラが引いていくように、赤茶けたものがだんだん球体であることが分かってきた。

「これ、なに?」

 絹は聞いてみた。

「火星だ…」

 京のため息が、大きくかんじられる。

「この望遠鏡は、展望台クラスだぞ…いや、あの巨大望遠鏡よりすごいかもな」

 京の感想に、絹は顔を上げた。

 いま、ボスが具体的に称賛されているのだ。

「それを、こんなに小さく作るなんて…おまえの保護者…何者?」

 ゲイです。

 ぱっと頭に浮かんだ最初の言葉を、絹はさっと消した。

「先生は…科学者よ」

 頭に『マッド』がつくけどね。

 絹は、浮かんだ言葉に、笑いをこらえるので大変だった。
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