ワケあり!
「ちょっと…来い」

 京に、腕を取られた。

 まだ、チョウが技術顧問の話を完全にあきらめたかどうか、言葉で確認し終わっていないというのに。

 京は、彼女を部屋の外へ引っ張っていこうとするのだ。

 その有無も言わせない力に、ドアの外に放り出される。

「ど、どこに行くの?」

 更に、廊下を引っ張っぱられる。

 絹としては、ボスが気になるので、余り遠くには行きたくなかった。

「隣…オレの部屋だ」

 バタン。

 大変近くて、ようございました。

 しかし、隣とは壁ひとつはさんでいる。

 声も姿も、完全に遮断されていた。

 あの二人は、どんな話をしているのか。

「一体、何事?」

 綺麗に片付けられた部屋。

 掃除をしているのは、本人ではないに違いない。

「お前、この間の観測会の時から思ってたが…先生は年上の、しかも社会人だぞ。その相手に、何保護者みたいなことやってんだ」

 決めるのは、先生だろうが。

 京は、保護者にいちいち口を挟むな――そう言いたいのだ。

 技術顧問という父親の言葉に、京も心踊ったのだろう。

 それなのに、絹が横から蹴りを入れたのである。

「京さん…私は怖いの。先生は、私を引き取ってくれた大恩人よ…その人に降りかかる危険があるなんて、考えたくもないの」

 この件に関して言えば、完全に京とは決別だ。

 今後の付き合いにも、影響が出るかもしれない。

 それでも。

 絹は、ボスを守らなければならないのだ。

 たとえ、ボスにそれを望まれなくても。

「だから、大げさすぎるって言ってるんだ」

 大げさ?

 絹は、微笑んだ。

 悲しかったのだ。

「京さんの中では…そんなに先生の評価は低いのね」

 あれだけの製品を、直に見ておきながら。

「私が悪者なら、あの発電機で人の体温や、周囲の温度を奪いつくすことに、応用するかもしれないのに…」

 真夏に――凍死だってできる。
< 97 / 337 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop