ワケあり!
「どんなものだって、悪用できるわ…ただ、そんな人を先生に近付けたくないだけ」

 絹はそうまとめたが、京に自分のダークな面を見せた気がしていた。

 ボス、すみません。

 京を敵に回したかもなあと、彼女は隣の部屋の雇用主に呟く。

「お前、先生のこと…好きなのか?」

 しかし、京の言葉は、絹を笑いの渦にたたき込んだ。

 うぷっと吹き出しそうになるのを、こらえなければならない。

「あはは…好きよ、大好き。いるかどうか分からない、神様より尊敬しているわ」

 それでも笑いが抑え切れず、絹は身体を折るようにして笑ってしまう。

 恋という感覚で扱われるのが、おかしくてしょうがない。

 恋なんてものは、夢を見る能力が生み出すものだ。

 絹にはまだ、そんな余裕などない。

 仕事をこなし、ボスを守るだけだ。

「お前…そっちの顔の方が、“らしい”な。少し、悪そうだが」

 京は、肩をそびやかしながら――笑った。

 坊っちゃんの考えることは分からない。

 母親に似た顔の女が、ダークでも構わないのだろうか。

「私は私よ…どんな顔をしていても、私」

 あの醜い顔でも。

 自虐的に、絹は呟く。

 ただ、この兄弟は絹が醜い顔であったなら、見向きもしなかっただろう。

 そこが、ボスとは違うところなのだ。

 絹の中に、深く貫かれているわだかまり。
< 98 / 337 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop