身代わり王女に花嫁教育、始めます!
この場に王の側近であるカリムの姿はなかった。

その代わり、面差しがカリムによく似た、彼より少し年長の男性がリーンを待っていた。

名前も『カリム・アリーと申します。アリーとお呼びください』そう言って、アリーも王の側近を名乗った。

カリムは今、どこにいるのか、リーンは気になったものの尋ねる時間はなく……。


「王女さま、お言葉を」


リーンが椅子に座ったままボンヤリしていると、アリーが小さく声をかけた。

言われた瞬間は自分のこととは思えず……。シャーヒーンが椅子の横にひざまずき、リーンの黒い衣を少しだけ引っ張る。


「え? あっ……えっと、あの。ああ、はい。大公陛下のお言葉を伺いましょう」


リーンの声を聞いても驚かなかったところを見れば、やはり入れ替わりを承知でやってきた使者だろう。

公国の政務に携わる大臣とか……その辺りを想像した。

大公の宮殿に仕える近衛兵や、生活面を統括する侍従たちならリーンにも面識がある。しかし、王女の侍女に過ぎないリーンが、政務に関わる大人の男性たちの顔を見知る機会などあるはずもない。


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