なみだのほし−Earth Tear Chlonicle−


『−ラグー!』

テテムの鋭い警告が響いた。

「ああ…やられた!下等なケダモノどもめ、卑劣な策ばかりは思いつくらしい…」

緑ばかりの平和な風の中に、わずかに、しかしはっきりと異なる臭いが混じっていた。
かぎなれた獣臭。先刻闘った狼たちだ。

『…ラグー。彼奴らは使い魔。罠を張ったは使い手の…』

「分かっている。その使い手がケダモノだと言っている。…行かねば。」

苦い顔でつぶやいて、今にも崖を滑り下りようとするラグーに、テテムの鋭い制止が飛んだ。空中から、ラグーの前に白い腕が現れる。

『なりません!奴らの狙いは殿下でございます。村を襲えばあなたさまが追って来ると踏んでいるのでしょう。今行けば兄上の思う壷です!』

「−ではお前は!」

ラグーは叫んだ。
今やすっかり姿を現した従者を、燃えるような碧眼が射抜く。

「俺を釣る餌として引き裂かれる村人を捨て置くのか。兄どもは簡単にそれをさせるだろう…俺を捕らえるためなら。
俺が罠を避けて先へ行ったところで、この村が全滅するだけだ。使い魔は加減を知らない。」

『しかし…こんな所でみすみす時を失うよりも…』

主人を見つめるテテムの瞳は、真紅。
彼女の美しい顔がこんなにも憂いに曇っていたら、たいていの男は言うことを聞いてしまうだろう。

だが、ラグーの返答は厳しかった。

「それでは兄や母と同じになってしまうんだ!目的の他には何にも目をくれず、流れる血になんの悲しみも抱かなければ…。」

なんの罪もないこの村に、災厄をもたらしたのは自分だ。

「−例え"あれ"を見つけるのが遅くなっても…拾える命は拾うと決めた。」

『…ラグー…』

長剣を素早く背負い直す主人を、炎の精霊は寂しく見つめた。

「俺は世界を救うと決めた…だから。

−行くぞ!!」


少年は、崖のふちを蹴った。


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