なみだのほし−Earth Tear Chlonicle−
◇
「−仲間だと?」
深夜の宮殿。男は誰かとしゃべっていたが、一人だった。
足元の光る魔法陣の内から、声がするようだ。
『は。女が一人、弟君に荷担しているようです。』
「…女?奴の使い魔のことではないのか?」
男…ジラルダの第二王子は、追っ手に遣わした己の手下から報告を受けていた。
『いえ。使い魔とは別の、確かに人間、しかもまだ小娘です。』
「小娘、か…あの弟らしくもない。あいつは仁義に厚いが、余計な情けはかけないはず。よほどの戦力か、まさか嫁にでもするつもりか?」
半笑いの主人に対して、姿なき声は低く続けた。
『…戦力としてでしょう。下僕が二頭殺られました。−グリフォールが人型に変じて迎え撃っております。』
「グリフがか?あの瞬殺の氷牙の狼が、小娘一人に剣を抜いたのか?」
彼には獣型の部下は無数にいるが、人型に転じる力を持つ者はそれぞれの獣の長のみ。
そのひとり、現在追っ手に派遣している狼隊の長・グリフォールは、よほどの相手でなければ人型にはならない。
「……いつからいるのだ。」
『どうやらこの村の娘のようです。接触したのは今日が初めてかと。
今は娘一人でおとりになっているようです。』
王子は腕組みをして考え込んだ。
弟王子が、無関係の民草を戦闘に巻き込んでいる。考えられない行動パターンだ。
「…本当にたまたま会ったのか、こちらを惑わす罠か、…それとも奴の目的に何か関わっているのか…?」
分からない。
そもそも、何故弟が旅をするのか、何故東へ向かうのか、それすら謎のままなのだ。
『オーディン様。どうなさいます?』
オーディン王子は顔を上げた。
「注視せよ。よもや小娘一匹加わったところで、グリフが負けることもあるまいが…。そなたは手を出さず、万一に備えて見張っていろ、ケルフ。」
◇
魔法陣の光が消えた。
ケルフと呼ばれた痩せた青年は、魔法陣に向かって膝をついて一礼し、立ち上がった。
やがて森の上空に、ケルフの片身である巨大な鷲が舞い上がった。