なみだのほし−Earth Tear Chlonicle−
「…っ!離せ…っ」
襟首を何かに掴まれている。
否、くわえられているのだ。首筋に、わずかに鋭い牙を感じる。
『黙れ。殿下の邪魔だ。』
女の声。ラグーの従者だった。
主人に向かって話すのとは、まるで違う冷ややかな口調だ。
『夕刻目見えたときにも大層な邪魔をしてくれたな。そなたなど、殿…ラグーに言上申し上げることすら鞭刑沙汰ぞ。−これ以上の邪魔立ては許さぬ。』
言い終わると同時に、レネは木立の陰に放り出された。
…でもその痛みよりもレネは、自分をくわえながらスムーズに喋っていたことに疑問を感じていた。
「…その前に、なんで犬なのにしゃべれるの…?」
『…犬などと侮辱するは我が爪と牙への挑発と思うが、いいか?』
堂々たる翼をたたんだテテムは、天を仰いで身を震わせた。
−すると、尾の先から炎が燃え広がり、巨体を一気に包んでしまった。
『−どこまでも無礼な娘だ。ラグーがおかばいにならなければ、今頃その細首食いちぎっていようものを…』
炎は一瞬で消え、巨大な羽犬がいたあとに、一人の女が立っていた。
「…だ、れ…?」
燃え盛る業火の色をした長い髪。燻る埋み火のような瞳。それと対照的な、死人のような白い肌。
薄い鋼の鎧だけを簡素に身につけた彼女は、レネの喉笛に素早く短剣を突き付けた。