おかたづけの時間
「じゃあ、帰るわ」
「ええ?!」
 晃は寂しそうな顔をした。
 うん。確かに。あたしも一体何しにここに来たんだか、わかんないわ。いきなり切れちゃうし。
 でも、すごく気持ちのいい部屋になったと思わない。これが、あなたがこれから暮らす部屋なんだよ。
 淡いブルーのカーテンから少し冷えてきた海の風が吹いている。海へ沈んでゆく夕日の色に、壁が赤く染まる。床は家のドアと同じチョコレート色。本当は、お菓子の家みたいにかわいいおうちだったんだね。この家は。
整然と並べられた本。洋服のかけられたクローゼット。ステレオとCD。たくさん並んでいる男の子の荷物。やっと家が呼吸をはじめた気がした。来た時は、瀕死の状態だった家が。
「あたし、帰って夕飯つくらなきゃならないから。晃も、今日は実家でご飯食べなよ。そして、ちょっとひと息ついたほうがいいよ。あたし、この家がちゃんと片付くまで、頑張るよ」
「本当に?」晃が目を輝かせた。
……だって、一番大変な水まわりが残っているじゃないの……。
(あまりにも嫌すぎて、あえて残したんだけどね)
< 15 / 21 >

この作品をシェア

pagetop