おかたづけの時間
窓からすべてのフナムシを追っ払って、網戸を閉め、やっとキッチンのお掃除終了、である。
あたしたちは終わった途端、深い感銘を受けて、大喜びで抱き合った。ああ、これでやっとゴールね。変な達成感に酔いしれる。(本当はそれもおかしな話なんだけどね。はじめっから片付いてれば)
 そして、あたしたちはさっきまで汚れ物をつかみ、洗剤まみれになりながらシンクを洗っていた手で、お互いを抱きしめ、口づけをかわした。
 ああ、理性飛んじゃう。なんだか、晃がたまらなく好き。あたしは、彼に、今までの彼氏にはない親密な気持ちが通い合うのを感じ取っていた。いつも、嫌われたくなくて必死で自分を隠して、それがばれて壊れていった数々の恋は、一体なんだったんだろうと首をかしげる程に。嫌なところもひっくるめて好きになることも、あるんだね。これが、本当に好きってことかもしれない。
「ねえ、あたしがこんな乱暴でがさつな女で、がっかりしなかった?」
「あー。まあ、でも、俺も何にもわかっていなかったから。汚い部屋に招いて冬香をがっかりさせたのは俺のほうだし。」
 晃は、温厚な呑気者だった。怒ったり、激しい感情を波立たせることがあまりない。本人に聞いても、そういうことが本当に苦手なんだと言った。男子系乙女のあたしには、本当にぴったりと合う性格とやさしさ。お互いの欠点を補う合うようにして、あたしたちはつながりあっていけるだろう、そんな予感がした。
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