おかたづけの時間
あたしたちは海水浴場のコンクリートの遊歩道を、手をつないで歩いた。
今日の海はおだやかで、ビーチに群がるサーファーの姿も少ない。数人の外国人がマットを広げて日光浴を楽しんでいる。小さな子供を連れたお母さんとすれ違う。
空は晴れて高く、鳶が大空をゆったりと旋回している。
ああ、なんて平和な景色なのだろう。
「あのさあ、あの鳶、時々、散歩中の子犬の上に回りながら集まって来るんだよ。こないだなんか飼い主さんが怯えて、物凄い勢いでテリアを抱きかかえて走っていくのみたよ。俺おっかしくて一人で笑っちゃったよ」
「うわ、それおっかしいね」
「だろ?」
あたしは大事大事にされているお座敷犬が突然の野生に襲われて呆然としている様を想像してじわじわ笑いがこみ上げた。
「あ、やっぱそういうセンスなんだよね、冬香ちゃんって」
え?何が?」
「ううん。ちょっと安心した」
はたとあたしは思った。ここは笑うところじゃないだろう普通。こわーい、とか何とか怯えないといけないのでは?もしくはかわいそう、とかね。
安心したって、何だろう。
「俺さ、結構人付き合いって、得意分野じゃなくて。どっちかっていうと、一人で本読んだり釣りしてんのが好きなんだよね。人に気を遣うのが疲れるっていうか。だから、あんまり冬香ちゃんも、俺に気を遣わないでいてほしい」
あたしの手を握った彼の手のひらが汗ばんでいる。そっか。とあたしは思う。お互い様だよね。最初っから嫌われたくないし、できれば好きになってほしい。せっかくはじまったものをおかしなことにしたくない。
人づきあいが苦手と言う彼だったが釣りの話をしていると止まらなくなった。この海岸ではキスとうまくいけばヒラメが釣れることもあるという。
「あたし、魚を三枚におろせるから。釣れたときに呼んでよ」
「わあ、いいね」
なんかあたしたちは共通項がそのとき初めて見つかった気がして、とてもいい雰囲気になった。
今日の海はおだやかで、ビーチに群がるサーファーの姿も少ない。数人の外国人がマットを広げて日光浴を楽しんでいる。小さな子供を連れたお母さんとすれ違う。
空は晴れて高く、鳶が大空をゆったりと旋回している。
ああ、なんて平和な景色なのだろう。
「あのさあ、あの鳶、時々、散歩中の子犬の上に回りながら集まって来るんだよ。こないだなんか飼い主さんが怯えて、物凄い勢いでテリアを抱きかかえて走っていくのみたよ。俺おっかしくて一人で笑っちゃったよ」
「うわ、それおっかしいね」
「だろ?」
あたしは大事大事にされているお座敷犬が突然の野生に襲われて呆然としている様を想像してじわじわ笑いがこみ上げた。
「あ、やっぱそういうセンスなんだよね、冬香ちゃんって」
え?何が?」
「ううん。ちょっと安心した」
はたとあたしは思った。ここは笑うところじゃないだろう普通。こわーい、とか何とか怯えないといけないのでは?もしくはかわいそう、とかね。
安心したって、何だろう。
「俺さ、結構人付き合いって、得意分野じゃなくて。どっちかっていうと、一人で本読んだり釣りしてんのが好きなんだよね。人に気を遣うのが疲れるっていうか。だから、あんまり冬香ちゃんも、俺に気を遣わないでいてほしい」
あたしの手を握った彼の手のひらが汗ばんでいる。そっか。とあたしは思う。お互い様だよね。最初っから嫌われたくないし、できれば好きになってほしい。せっかくはじまったものをおかしなことにしたくない。
人づきあいが苦手と言う彼だったが釣りの話をしていると止まらなくなった。この海岸ではキスとうまくいけばヒラメが釣れることもあるという。
「あたし、魚を三枚におろせるから。釣れたときに呼んでよ」
「わあ、いいね」
なんかあたしたちは共通項がそのとき初めて見つかった気がして、とてもいい雰囲気になった。