おかたづけの時間
3 彼の家は…
あたしたちは古い漁師町に入った。急な石段の多い小さな町。その突端に白いペンキと赤い屋根のかわいい平屋の家が建っていた。
「ここが俺んち。一人暮らししてるんだ」
 えええ。
「高校生なのに一人暮らしなの?」
「うちのしきたりで、自立心を養うって理由で、十六歳になると家を追い出されるんだよ。長男がいて、兄貴も高校は海外へ留学したんだ。俺は、ちょうど親戚が持ってた使わなくなった猟師小屋があったんで、そこをちょっと改造して住めるようにしてもらったんだ。どうせ住むなら釣りができたほうがいいし。」
 と言って、彼は笑った。
 一人暮らしか…。すっごく、いい、シチュエーションなんですけど…。
 なーんか、嫌な予感がするんだよね。この家。あたしの頭の中で警報が鳴っている。
「あのさあ…」
 とあたしはおかしなことを言いかけた。死体でも転がってるんじゃないでしょうね?
 不思議な臭いがした。
 家事を毎日しているあたしがよく知っている。これは…これは…。
 彼は笑顔でチョコレート色のドアを開けた。
 扉の向こうには信じがたい情景が広がっていた。
 玄関には靴箱があるにもかかわらずおびただしい数の靴が脱ぎ散らかされて足の踏み場もない状態。それだけならまだいい。
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