手を出さないと、決めていたのに
「……………」
 言葉が出なかった。
 次に姉が、もし、何か言って茶化したりしたら、もう今日は諦めようと思ったが、何も言わなかった。それよりも、むしろ、静かにこちらの言葉を待っていた。
「…………。…………俺」
 長い沈黙の後、ようやくその一言だけ出る。
「うん……」
 頭をできるだけ下げた。姉の顔など到底見られはしない。
「俺………」
 さらに沈黙は続く。
「……俺……」
 息をするのが辛いくらい、緊張していた。
「言いにくかったらいいよ?」
 姉は優しげに言った。だがそれを破るように、思い切って放つ。
「姉さんが好きだ」
 顔を見る勇気なんてない。ただ自分の足元だけを確認する。
「え?」
 驚いただろ?
「何? 何が? ねえ、正美……」
 姉が半分笑ったのを機に、目を合せた。
「え、……何?」
 だから俺がこんなに真剣な顔してるのが、信じられないだろ。
「俺は姉さんのことが、好きだから」
 言い切ってやる。
「へ……え……、そう。まあ、兄弟だし」
 姉は異変を感じて、顔ごと逸らした。
「違うよ。今好きな人の話をしてるんだ。兄弟の話じゃない」
「え……どうしたの?」
 今度は心配とは違う、困惑した表情で見つめる。
「どうもしないよ。好きだって言っただけ」
「あそう……」
 次の話題を考えているのが、表情でよく分かる。
「ずっと好きだったよ。兄弟としてじゃなく、女として。俺は、今までみたいに普通にしてるだけで良かったけど。この前、結婚の話が出て……。
 結婚だけは、してほしくないから」
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