手を出さないと、決めていたのに
 眉間に皺を寄せてこちらを見ているその表情は、今までの歴史の中でも見たことがなかった。
「え……何? 」
「俺はずっと思ってたよ、姉さんを好きだって。抱きたいって。ずっとだよ」
「え、ち……な、どうしたの!?」
 返答に困り果てたのか、声を荒げ始めた。
「どうもしないよ」
 ちゃんと冷静に、話を進めていかなければいけない。
「え……だって。何言ってるのか……」
「分からない?」
「分からないよ。何? 小説の話? 」
 そんな返答しか思い浮かばなかったのだろう。
「俺の気持ち。信じられない?」
「え……うん。意味がわかんない」
 姉は真剣な俺の表情に完全に戸惑い、言葉を失っていた。すがるものも、何もない。
「意味……好きに意味なんてないよ。好きだから好きだって言ってるだけ」
 立ち上がって、姉に近づく。姉は強張って俯くと、髪の毛が頬にかかり、それを手で払った。
「……乱暴なのは嫌いなんだ。そんな経験もないし」
「え……?」
 見上げられると、つい興奮してしまう。
「ちょっとこっち来て」
 焦ってはいけないと言い聞かせながら、ベッドサイドに腰かける。姉は拒否するかなと思いきや、簡単に立ち上がると、オレと少し離れてベッドサイドに腰掛けた。
「何? 乱暴って何?」
「乱暴なの好き?」
「え、嫌いだよ。というか、皆嫌いじゃない?」
「まあそうだね」
 すぐ側に姉がいる。胸のふくらみ、肌のキメ、吐息の行方まで分かるほどに。
 自分自身は完全に姉しか眼中になく、順調に事を運びたいという気持ちがかなり湧いてくる。
オレは恐れられないように、ゆっくり両手を姉の両肩にかけた。
「え……何?」
 姉は咄嗟に肩を揺らし、振り払おうとする。
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