太陽の竜と闇の青年
「……俺は暗殺からは手を退いたからな。それでも人を殺めるときはある。そんなとき、俺に笑いかけてくれる存在があるからな。きっとその笑みに安心するんだろう」


愛しい人でも思い出すかのように壱の顔は憂いに帯びた。


「とりあえず、壱師匠、座ろうよ。河屡たちだって壱師匠に話したいことがあるし」


壱は河屡の言葉にうなずいて、火鉢の前の座布団に腰をおろした。


「壱さん。まずおいらたちから質問してもいいかい?」


ファーナスは暢気に壱にそう聞いた。


私たちも壱の周りに座る。


壱は曖昧な笑みを浮かべた。


それをOKととったのか、ファーナスは壱に質問をした。


「壱さんと一緒にいて、壱さんを助けにきたあの女の子って、壱さんにとってはどんな人なんですか?」


壱はフッと微笑を浮かべた。


「俺にとってルウは唯一無二の存在だ。アイツがいなければ俺の存在理由がない。アイツが死ぬというのならば俺も死ぬ。それほど大切なんだ。もし、お前等がアイツを殺そうとするならば……」


そこで壱は言葉を止めた。


その瞬間、背筋がゾクッとした感覚に襲われた。


久しぶりだ……。


壱の殺気を感じたのは……。


「俺はお前等を殺す」


その顔は冗談なものではなかった。


……壱は本気だ。


私たちがあの人を殺そうとするならば、壱は私たちを殺そうとする。


私の頭の中で危険信号がなっていた。


「わ、わかった。そのことについてはおいらは了解したよ。ところで、その女の子ってどこの子なの?見た感じ、和国ではないよね?おいらみたいにハーフなの?それとも他国からきた人?」


私はファーナスのオレンジ色の目と髪色をみた。


ファーナスは和国の男性と蒼国の女性との間で産まれた子供だった。


生まれは和国だが、女性の血が濃かったのか、他国から来た住民にみえてしまうそうだ。


壱はスッと東を指さした。


「ルウは風国の住民だ。つっても、風国の第一王女ウィン=ルウだけどな」


私たちは驚きを隠せない顔で壱をみた。


鎖国が終わり、和国が開国されてから他国の情報はたくさん入ってきていた。


暗殺者は情報が命ともいえるから私たちは毎日のように情報収集に励んでいたぐらいだった。


その中でも多かったのは風国の国づくりだった。


風国の王族は不思議な人ばかりで、自分のことは後回しにして民を一番にみると言われていた。


そのため、風国の王族たちの命は狙われることもなかった上、民に愛される存在だった。


王族自ら食料を下々に渡しに行くというのだからとんだ政治の仕方だと思った。


だが、私の心はその政治が一番の理想だった。


その理想の政治の第一王女があの人だとは……。
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