c-wolf
「君は本当の兄の何をみてきたの?」


珠羅が目を見開いた。


「何を……って……?」


その瞬間、珠羅の首をc-wolfが掴みあげた。


その速さがあまりにも速くて、威濡も琥露も目で追うことすらできなかった。


「兄の心」


c-wolfの目が血のように真っ赤になった。


「憎い、憎い、憎い。突然来たガキのくせに僕とは違って”人間扱い”されている。だけど僕はいつまでも”おもちゃ”のまま。汚い仕事は毎回僕と珠羅。何でアイツ等は許される。なぜ手を汚さない。殺しは…殺しなんて…もう、嫌だ」


珠羅の顔がひきつった。


「そ……んなのこと……兄が……思うわけ……」


「思うわけない?だから俺はお前は兄を見ていないっつってんだよ」


ガッと鈍い音がして、珠羅が壁に投げつけられた。


威濡と琥露が慌てて珠羅に近づき、琥露が頭をみている間に威濡がc-wolfの前に立ちふさがった。


「……お前は何しにきた」


c-wolfは小さく肩をすくめた。


「何しにきた?決まってるだろ?伽羅の様子をみにきたんだよ。なにしろ、すっげぇ壊れたからな。どんな風に壊れたのか気になってよ」


「伽羅を、馬鹿にしてるのか」


「馬鹿になんかしてねぇよ。ただ気になってるだけ。ちなみに、俺が伽羅を壊したんじゃねぇよ?伽羅が自分から壊れたんだ。ただ、暴れてうるせぇから、ちょいっと罰を与えたんだ」


それが時計台の磔か……。


威濡は舌打ちをした。


「お前、悪趣味だな」


「どうとでもいえ。ただ、俺は人間が嫌いだからな。特にお前等みてぇな正義者きどりのお偉いさん」


レインなんてドンピシャだ、とc-wolfは高らかに笑った。


しかし、次の瞬間、また変わった。


最初に出会った無情の顔。


「……もう、話は終わりだ。俺は伽羅の様子を見にきた。お前等に興味はない」


c-wolfから殺気が放たれた。


まるでそこら中に狼がいるかのように鋭い視線をたくさん浴びているようだった。


動けない。


まったく、体が動かない。


これが……狼のボス。


「そんな風に真っ直ぐな道を歩いて楽しいのか?」


ゆらりと伸びてきた腕を威濡は払うことができなかった。


「偉いね……。僕には真似できない行為だ」


ニッコリと艶やかに微笑んだc-wolfの顔が脳裏に焼き付く。


頭を鷲掴みにされ、威濡は顔をしかめた。


耳元にc-wolfの口がある。


「ライオンは群れで行動する。だが、狼も一緒だ。意味、わかるか?」


そして、ドスッという鈍い音と同時に、腹に激痛が走る。


目の前がだんだんと薄暗くなり、琥露の叫び声が遠くに消えた。
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