c-wolf
「兄、さん……」
珠羅の目が大きく開かれた。
窓辺に軽く腰をかけてにこやかに微笑んでいる姿は、伽羅そのものだったけど、どこか伽羅じゃないようで、珠羅にはそれが怖かった。
「兄さん、戻ってきてくれたの?」
珠羅が小さく笑って喜びを表現すると、伽羅は小さくため息をついた。
「ううん。違うよ、珠羅。僕は珠羅にお礼を言いにきたんだ」
「へ?」
珠羅が眉をひそめると、伽羅はニッコリと艶やかに微笑んだ。
「僕の妹でありがとうね。僕よりも出来のいい子になってくれてありがとうね。……僕は威濡も琥露も大嫌いだったけど、珠羅、君も嫌いだったんだ」
伽羅の言葉が珠羅の胸深くに突き刺さった。
うまく息ができない。
「僕よりも君のほうが出来がよかったから、官長も僕たちの親も……君を可愛がった。だけど……僕はいらなかった。一番に捨てられたのはやっぱり僕だったよ」
憎みに燃えた目が、珠羅を突き刺す。
珠羅はそれでも作り笑いを浮かべ、伽羅に言った。
「兄さんはいらない人じゃないよ。だって、私は兄さんが必要だから……」
伽羅は首を横に振った。
「もう僕は一度死んでいるんだ。でもゼルトが生きていていい、と言ってくれた。だから、僕はあの人に一生を捧げて生きたいと願っているんだ。たとえあの人が人を何人殺したとしても僕の忠誠は変わらないよ」
珠羅はありえない……と呟いた。
「僕もね、初めはそう思ったよ。スパイになってやる気持ちであの家に乗り込んだ。だけどあそこは僕の楽園だ。僕を必要としてくれている。こんなところとは違ってね」
だからさ……と伽羅が珠羅に手をのばした。
「珠羅も兄さんとおいでよ」
しかし…………
「兄さん、私、威濡と約束したの……。ずっとここにいるって……。だから……兄さんとは行けない……」
珠羅の言葉に伽羅が首を傾げて小さく笑った。
「そっか。そうだと思ったよ。そうか、だったらこれからは珠羅とも威濡とも琥露とも官長とも敵だね。僕はゼルトの味方だから」