“愛してる”の、その先に。
「真奈美」
彼の声にはっとした。
ホテルのラウンジの、向かい合って座るソファ席。
タクシーがいつものホテルに着いた時、てっきり部屋をとってあるのだと思った。
もしそうだったら、帰るつもりだった。
だけど彼が向かったのはフロントではなく、反対側にあるラウンジだった。
「大丈夫か?ぼーっとして」
「ごめんなさい、大丈夫」
注文したコーヒーに砂糖をひとつ溶かしながら、小さく笑ってみせた。
「…2ヶ月ぶりだな。
…すまない、遅くなって。
もっと早くに、真奈美には無理やりにでも会いに来るべきだったのはわかってる」
「…やめてよ。
避けてたのは私の方なんだから」
あれ以来、何度も彼から連絡があったけど、私は出なかったしかけ直しもしなかった。
もともと本社勤務の彼とは、会おうとしなければ顔を合わせることもない。
…もう、終わったのだから。
終わらせなくてはいけないのだから。
「大丈夫なのか?…その、傷の方は」
彼はどこか遠慮がちに聞いてきた。
「傷ってほどのものじゃありませんから。
…それより、奥様の方は大丈夫なんですか?」
「…うん。最近薬を変えて、少し落ち着いてきたかな。
割と安定しているよ。
娘も、少しずつだけど外に出てくることが多くなった」
「…そう。良かった」
私はホッと息をつくと、コーヒーを一口啜った。
「…ずっと、真奈美会ってちゃんと伝えたかったんだ」
どこか真剣な声色で、彼は続ける。