“愛してる”の、その先に。
「今回のことで、真奈美にまで大変な思いをさせてしまった。
それをちゃんと、謝りたかった。
…本当にすまなかった」
彼は私に向かって頭を下げた。
その姿を見て、胸がしめつけられるようだった。
……やめて。
廣瀬さんが、謝らないで。
あなたは何も悪くない。
私が悪いの。
全部、私のせいなんだから。
「…許してくれとは言わない。
許されるとも思っていない。
謝って済む問題でもないって分かってる。
真奈美にも、妻にも…。
これは、僕の責任だから…」
「違います、廣瀬さん」
私はきっぱり言った。
「廣瀬さんが責任を感じることはありません。
私、廣瀬さんを責めるつもりもありません。
奥様を責めるつもりも一切ありません。
…私だって加害者です。
許されることをしたとは思ってません」
私がそう言うと、廣瀬さんは小さく息を吐いた。
「…君の、そんなまっすぐなところに惹かれたんだろうな僕は」
「え…?」
「…最後にこれだけは言わせてくれないか。
僕は一度も、真奈美を中途半端な気持ちで抱いたことはない。
真奈美にしてみたら僕はおじさんだし、単なる暇つぶしだったかもしれないけれど…
僕は本気だったよ。
真奈美を、愛してる」
彼はまっすぐな瞳で私を見つめ、そう告げた。
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一晩で嵐は過ぎ去り、台風一過の朝は快晴だった。
所々道端に木々の枝や葉が落ちているのを見ると、どれだけすごい暴風雨だったのか伺える。
山の方では土砂崩れの被害があったと、今朝のニュースでやっていた。
台風の爪痕とはこのことだ。
嵐が去って初めて、傷に気付く。
その中にいる時は無我夢中で周りが見えなくなっても、
過ぎ去った時にふと振り返ってみれば、
思いのほかダメージが大きかったりする。
そういうものだ。