“愛してる”の、その先に。
「…え、え?わざわざ来てくれたんですか?」
「そうよ。
真面目なあんたが仕事休むなんて初めてじゃない。
熱は?まだ下がらないの?」
「あ、いえ、今朝39度近くあったんですけど、寝たらもう下がりました」
「そうなの?なんだ、薬とかいろいろ買ってきたのに」
私は買い物袋を掲げてみせた。
「えっ、そうなんですか?!
す、すみません、いろいろ気遣ってもらっちゃって。
明日は絶対出勤しますから…あ、良かったら上がりますか?」
「え?」
村井がドアを開けて中へ促した。
私は一瞬躊躇したけれど、すぐに思い直す。
村井は、女を部屋に居れることに、下心なんてきっとない。
「じゃあ折角食材買ってきたし、作ってってあげるわ」
「え、良いんですか?
良かった〜!昨日からまともなもの食べてなくて」
「そんなだから風邪ひくのよ。
芝さんたち言ってたわよ?
村井は1番若いけど1番か弱そうだって」
部屋は1DK。
男の部屋にしては割と片付いている。
「キッチン借りるよ?
村井、あんたは大人しく寝てなさい」
「すみません」
私はスーツのジャケットを脱ぐと、料理に取り掛かった。
良かった。
冷蔵庫は空だけど、調味料はそれなりに揃ってる。
「村井、あんた普段自炊してるの?」
鍋や調理道具もほとんど揃っていた。
「あ、はい。なるべく作るようにはしてます。
そんな大したものは作れないですけど」
村井は部屋からそう答えた。
私だってそんな大したもの作らないけど、
なんでこのうちには、こんなものが揃ってるのよ。
私は何種類か揃ったハーブの瓶を横目に思った。