“愛してる”の、その先に。
求められたから答えただけ。
そこに気持ちなんて存在しない。
その時互いに目の前にある人肌を必要とし、抱き合ったというだけ。
それが“永遠”だと、あるわげがない。
そう分かりきっていたからこそ、やめる理由も見つからなかった。
「…見て、これ」
私はシャツのボタンを外して、左肩をさらけ出した。
村井がゴクリと喉を鳴らす。
「この傷ね、廣瀬さんの奥様に刺されそうになったの。
…て言ってもかすり傷で、血だって滲む程度だったんだけど、思いのほか跡になって」
私は左胸上から肩にかけて出来た、ミミズ腫れのような傷跡を見せて言った。
あの日、廣瀬さんの奥様が突然私の前に現れた。
どうやって調べたのか、私のアパートの前で待ち伏せしていて、
私が仕事から帰ると、いきなり前に立ちはだかった。
奥様は、私と廣瀬さんの関係を知っていた。
そのことを私に追求してきて、何も答えない私にだんだん苛立ちを見せ、
しまいには大声で発狂して、襲いかかってきた。
「…廣瀬さん、お子様が学校でいじめにあって不登校になってたみたいで。
それで奥様は精神的に不安定になって、ずっとノイローゼ気味だったみたいなの。
その上夫が、私みたいな女と不倫してて…
そりゃ、殺したくもなるわよね」