私の好きな人は駐在さん

「そんなの気にしなくていいのに!」
私が丁度そう言った時、両手に皿のせたボーイがこちらに歩いてきた。
それを目で追う私に気付いたのか、由紀もそちらに目をやり、

「やった、パスタがいよいよ来たね!さあ、食べよう食べよう。」
といって、ニッコリ笑った。

ボーイが丁寧に皿を並べてくれ、ごゆっくりどうぞ、とまたもや美しい響きを礼をして、はけていった。

「じゃあ、ちょっともう飲んじゃったけど、由紀の結婚を祝して、乾杯!」
私はグラスを右手でもって、由紀の方に付き出した。

それを見て、由紀もグラスを手に取り、
「ありがと。乾杯。」

チリン、という幸せな音を鳴らして2つのグラスが触れ合った。


「おっ…美味しいっ…!!」

乾杯を終え、早速パスタを食べにかかった私は、一口目で感動に包み込まれた。

濃厚なミートソースの味が、口にいれた瞬間にぱっと口一杯に広がり、ほんのりとガーリックの香りが鼻を抜けた。ほどよいアルデンテに仕上げられたパスタの麺が心地よい歯ざわりを与え、これがまたミートソースによく馴染んでいた。お互いがお互いの良さを引き立たせるような役割をしており、こんなパスタは初めて食べた。一度食べるともう、終わり。口へと運ぶ手が、もうどうにもこうにも止まらないのである。

「本当、美味しい。」
そういって、由紀もおしゃれなパスタを口に頬張っていた。

終始美味しい、美味しい、と呟いて、あっという間に一皿を平らげてしまった。
下品な表現ではあるが、皿に残ったソースを舐めて平らげてしまいたいくらいに美味しかった。
美味しいという言葉では表現しきれないこの美味しさを上手く表現できない自分がもどかしかった。





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