私の好きな人は駐在さん

家に着いて、電気をつける。

散らかったり、掃除が大変なのが嫌で、家には最小限の家具しか置いていないため、いつも帰った時に殺風景さを感じることは否めない。
だが、大きくもなく、小さくもないマンションの一部屋を借りて一人暮らしをしている身だけど、自分なりに気に入ってはいた。

玄関から上がって、少し入ると、キッチンがあり、その奥に広い一室がある。そこをリビングとしており、最近買い換えたデジタルテレビと、ベージュ色のソファー、実家から持ってきた長方形の卓状テーブルが、ぽつんとおいてある。

私はどっさりとそのソファーの上に腰を下ろした。

放心状態のまま、白い天井を眺めた。


「私って、恋してるのかなあ?」
誰に聞かせるでもなく、独り言をぽっ、と宙に漂わせた。

あれからーーあの恥ずかしい事件があった、あの日から、私はずっと悶々としていた。悶々としていることを忘れるため、紛らわすため、私はずっとそのことから目を背けて、仕事に没頭したり、眠りについたり。しかし、今日の、由紀のあの一言が、私をこの問題の前に正座させることとなった。


あの事件ーー私が酔いに酔って、警察官さんにまでお世話になってしまった、あの出来事ーーあの後、私は不可解な行動に出た。
誰かが私を操っていたんじゃないかと思ったくらい、何の唐突もなく。

確かにあの時、私を介抱(?)しつつ、職務質問してきたあの警察官、あの人を見た時、かっこいいと思った。私の好きな男性の傾向に合った人だな、と思った。むしろ、こんなにもぴったりそぐう人がいるもんなのかと驚いたくらいだ。
でも、それで終わり。実際そのまま、別れて終わりだったし、終わりなんだけど。
その、次の日、私は何故か、あの交番の前にいた。
由紀に、私がお世話になった交番の名前を前もって確認して、私はそこに自らの足で訪れたのだ。
しかし、何か用があったとか、何かしにいったとかでは全くない。
ただ、何故か分からないけれど、行きたくなった。
そして、その交番の近くを何するわけでもなく、携帯を片手に、道に迷っているか、あたかも待ち合わせをしているかのように装い、交番の中を覗った。
誰か周りに人がいるわけではなかったけれど、誰かに怪しまれるんじゃないか、見られてるんじゃないかと思いつつ、そんな風に装ってまで中を見ようとした。本当は、自分でも不可解な自分の行動を何とか説明付けたくて、そんなことをしていたのかもしれないが。






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