私の好きな人は駐在さん
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雑誌原稿締切の日が来た。
結局、あの日の次の日のランチ、夕食は全て雑誌記事を書くために費やされた。
もう当分、申し訳ないが、イタリアンとやらを食べるのは控えさせていただきたいと重々頭を下げたくなるほどの勢いで食べ歩いたのだ。
しかし、どのお店も美味しかった。美味しく、個性的であるからこそのパンチ力だった。
だから、記事としては、私はかなりの自信がある。これは久しぶりに来たな!と……
「おっ、今回のお前の記事、良いんじゃない??すごく良くまとまってるし、かといって、よくあるグルメ雑誌みたいなありきたりな感じはないし。いいね!採用!!」
と、デスクから今までにない浴びせられるほどのお褒めを頂き、
一定の自信を持ちつつ提出したものの、その想像を超えた勢いでデスクの反応が良かったので、私はすっかり舞い上がってしまった。
やっぱり仕事はいいよね!充実感をもっとも感じるのはこの瞬間なのである。
自分の一生懸命手掛けた記事や案がみんなから高評価を頂き愛される。それこそが私達編集者や記者が最もやりがいを感じ報われるときなのである。
「やったね、かおる。ね、今晩、お疲れ様会ってことで、ご飯でも、どう?」
右手で、くっ、とグラスを傾ける仕草をしながら、デスクからの点検を受け、無事に自分の席に生還したばかりの私に駆け寄ってきた由紀が言った。
「ええー!私も行きたいですぅ。」
どこか甘ったるい声で理子も駆け寄ってきた。
「ダメダメ!ここは同年代の女同士の会合なんだから!若い輩は、お引取りをー。」
といって、理子を追い出すように手のひらをひらひらとさせながら由紀が言った。
「由紀さんのいじわる。いいですよ!私、若いですからっ!」
理子は最大の抵抗をして、書類を抱えて去っていった。
「あの生意気女め!」
由紀は、今にもおっかけていきそうなくらいの勢いでその反抗に反応した。
「まあまあ……。そうだね、今日は二人でとことん飲もうか!」
右手で小さくピースサインを作って、由紀に向かってはにかんだ。
「よっし!決まり!じゃあ、今日はお互い定時後にエントランスで。」
じゃ、と軽く手を上げて、由紀は自分の席に帰っていった。
とはいえ、私の左斜め後ろの席なんだけれど。
それを見届け、よし、と私も一つ固く決心した。
そう、あの悶々としている問題を由紀に、この機に打ち明けよう、と決めたのだった。