私の好きな人は駐在さん


会社の白い壁にかけられている時計が定時を告げ、まだこれからも仕事を続行する同僚達に、お先です、と声をかけ、私は、既に少し定時を過ぎた私の腕時計を睨みつつ、エレベーターでロビーへと向かった。私の腕時計は常に遅刻を防ぐために、日本の標準時よりも5分程早めに設定してあるのだ。

エレベーターをおり、パンプスの音をロビーに響かせながら、辺りを見渡してみたが、由紀の姿は見当たらなかった。
席にはいなかったから、もう来てるのかと思ったが、どうやらまだ来ていなかったようだ。
私は軽く弾んだ息を整えつつ、ふわっとめくれあがった前髪を指先でといて元の形状に戻した。

「おまたせっ!」

前髪を整え終わったと同時に、背後から由紀の聞き覚えのある声が聞こえた。
振り向くと、やはりそこには、右手を軽く上げながら、こちらに駆けてくる由紀の聞き覚えのある姿を私の目は捉えた。

「待った?ごめんね、ちょっと、書類整理してて。」
胸に手を当てながら、絶え絶えに由紀が、言った。

「ううん、私も今来たとこ!」
右手でピースをつくって、由紀の目の前に突き出した。

「じゃあ、いこっか!!」

「うん!!」


私達は足並みを揃えて、エントランスの自動ドアに向かった。



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