ビロードの口づけ
 話しても大丈夫だろうか。
 ジンはあの獣の話をすると、いつも不機嫌になった。

 また機嫌を損ねて乱暴な事をされたらと思うと怖い。
 けれどうまい言い訳も思いつかない。
 クルミは俯いて正直に告げた。


「もう一度会いたいと思っているんです」

「怖くないのか?」

「怖いけど、記憶に焼き付くほどきれいで忘れられません。触れてみたいと思いました」

「そうか」


 意外にもジンは怒り出す事もなく、静かにつぶやいただけだ。
 クルミが顔を上げると、ジンは穏やかに微笑んだ。


「昔話を聞かせてやろう」


 そして静かに語り始めた。

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