あなたの隣が就職先



「私が先生のために作りたいの。ダメ?」

 真っ赤な顔をしてそんなこと言われてしまったら……もう、僕は何も言えなくなってしまう。
 スマホを弄りながら、チラチラとキッチンのほうを見てしまう。
 もう今日で見納めになるセーラー服姿。短いスカートから伸びる真っ白なきれいな脚。
 鼻歌交じりで味見をする彼女。その歌声も、きれいな長い脚も、長くまっすぐな黒い髪も、すべて僕のモノ。
彼女全部が僕のモノ。そう意識しただけで身体の奥が疼く。
 彼女の苗字は今日変わった。僕と同じ姓になった。もう―――彼女は僕だけの人だ。

 スマホをそのままソファーに置き、僕はキッチンいる彼女の背後に立つ。

「ん? 先生? もうちょっと待っていてね。もうすぐできるからね」

 軽やかにお玉を回している彼女を、背後から抱きしめる。

「せ、先生?」

 驚いた様子の彼女が愛おしい。僕はギュッと抱きしめ、前かがみになって彼女の項に唇を寄せた。

「っ! だ、ダメだよ。今、ごはん作っているのに」
「好きだよ、エミ」
「え……?」

 初めて彼女を名前で呼んだ。もうこれからは、誰かに関係がバレるかもしれないと怯えることもない。
 公私ともに晴れて僕のお嫁さんになった彼女の名前。その響きはとても甘かやかで、特別なもの。
 涙を流す彼女の耳元で僕は精いっぱいの愛を囁いた。

「ご飯の前に、エミを食べさせて……」



 FIN

 
 
 


 
 
< 4 / 4 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:32

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

再愛婚~別れを告げた御曹司に見つかって、ママも息子も溺愛されています~
  • 書籍化作品
[原題]モトカレ弁護士の求婚から逃げられない!~似た者父子はママを離しません~

総文字数/105,472

恋愛(純愛)224ページ

表紙を見る
スパダリな夫はケダモノな本性を隠せない

総文字数/28,227

恋愛(純愛)61ページ

表紙を見る
アオハルの続きは、大人のキスから

総文字数/68,783

恋愛(純愛)120ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop