記憶 ―砂漠の花―


避難していた小さな街にもサザエルの…
いや、マルクの手は迫る。


街は焼かれ…
炎の叫びが聞こえる。

人々の叫び声…
兵士たちの不気味な笑い声。

街からの煙で、
空は澱む。


母上は幼いアイリの手を引き、時には抱き抱えて逃げていた。



そこは、砂漠の真ん中だった。

日が傾き、空が橙色に染まる。


母上はアイリを抱え、後方から迫る兵士から逃げていた。

徐々に馬のヒヅメの音が迫る。


「――っあぁぁぁ!!」

走る母上は、後ろから背中を切り付けられた。

その場で崩れ落ち、
砂にまみれた。

腕から…、
アイリが顔を出す。


「……逃げなさい…」

母上は、倒れたまま、
そう言うと幼いアイリの金色の髪を撫でた。


「…かあさま…!かあさま…」

アイリが母上の体を揺する。
アイリの手が、
赤く、染まった。


兵士たちが二人を囲んだ。


「――逃げなさいっ!」


母上が強くもう一度言うと、
アイリは泣きじゃくる。


「……逃げて…お願いだから…」


取り囲む兵士に遅れて、一人の男が到着した。



「やれっ!」


そう叫ぶ人影は、
マルク…


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