記憶 ―砂漠の花―


兵士は、アイリの首根っこを捕まえて宙吊りにした。


そして…、

鋭く光る剣で、

アイリの胸を、刺した――


「――やめてぇぇぇ―……!!」


母上の目には、
力なく砂に倒れる、幼い愛しい娘の姿。



「嫌…嫌ぁぁぁ…!」


その砂は、
赤く、赤く…染まる。


「……ふふふ…。致命傷だ、放っておけば事切れる。二つ目の心臓が動いたところで、この砂漠では飢え死ぬ。その前に獣に喰われるだろう。…お前は連れていく!行くぞ…!」


母上は、
何度も、何度も…

血を流す娘を、
涙で霞む目で振り返りながら連行された…


マルクは、
この時、知らなかったんだ。

母上が魔力を失っている事を。



……あれは…

――あれは、私……?

私…?
私の名は、アイリ。


拾われた子…

…なはずだったのに。


嘘、うそ…

これは、何―――?



母上の記憶、
私の記憶…。


母上の紅い力、
…封印された力、
私の…紅い力。


アズが生き返った、
…ウィッチ…
紅い力…。


砂漠で刺された妹アイリ、
事切れる…、
…もう一つの心臓。


< 232 / 283 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop