記憶 ―砂漠の花―
母上の体をぎゅっと抱きしめ返す。
カタカタと震えながら…
中庭の窓の向こうには、黒い夜。
灰色の鱗雲に覆われた空で、
月が微かな光を放つ。
「…アイリ…お前は…」
横で見守っていたアランは、私を見抜く。
これが感動の涙ではない事を、きっとアランは知っている。
――言わないで…
見ないで…
悟らないで…
私はアランに目で訴えた。
アランは一度自らの目を伏せ顔を背けた。
その拳に力を込めると、裏腹の態度で母上に話し出した。
「…叔母様…?アイリも疲れてるし休ませてあげないと!」
「…えぇ…、そうね!ごめんなさい…」
母上が私から慌てて離れ、涙を拭う。
「…別室のリフィルさんの様子…見て来てもらえます…?俺が二人に付いてますから…」
「そうね!私ったら、また自分の事ばっかり…!アイリ…少しゆっくりして頂戴…」
母上が部屋を出ていった。
「…アイリ…お前とアズは……」
アランが再びその話題に触れた。
私は両手で耳を塞いだ。
「――言わないで…?」
確認しないで…
触れないで…