記憶 ―砂漠の花―
部屋には、ふんわりと花の香りが漂っていた。
周囲を見回すと、ベッドの横の棚の上にはアランがあらかじめ用意したであろうお香が煙を放っている。
「アラン!明日早いからもう寝たいの。まず私から離れて!そしてこの部屋から出ていって!?」
私は思いきり睨んでやったが、さすがいくつもの修羅場を潜って来ているだけあって、アランは笑顔で対応した。
「もう。そんなに怒んないでよ。はいはい、まず離れます~。」
両手をあげ、おどけながら後ろへ下がり、ベッドに腰掛けた。
あぁ、
…出て行く気はないらしい。
「アイリ、俺の事嫌いだよね~、何で~?」
「別に嫌いじゃないよ。ただ、すごく苦手なの!女ったらしって!」
私の嫌味のこもった言葉も、アランは自然とすり抜ける。
「女たらしっていうか、アイリ昔からアズ以外の男を寄せ付けないんだよね~。」
「そ、そんな事ないもん!」
「俺がアイリに冷たくされる度に悲しくなるの、アイリ知らないでしょ…。」
急に捨てられた子犬みたいな瞳で私を見る。
小道具に、枕を抱き締めて。
みんな、これに弱いのか…。
これも奴の手だという事を私は知っている。