Raindrop
「和音くん、最近いいことでもあった?」

コンクール以降、週一となっているレッスン日。

秋晴れの爽やかな青空が広がる土曜日の午前中、一通りのレッスンを終えて片付けをしていると、水琴さんにそう声をかけられた。

「何故です?」

「最近の和音くんの音、とても楽しそうだから。この間のコンサートもとても評判が良かったわよ」

「そうですか、ありがとうございます。実は……」

友人にジャズをやっている人がいて、その人が出入りしているところに最近通っているんです……と説明しそうになって。

ぐっと、言葉を呑み込んだ。

いかにヴァイオリンの先生といえど、まさか夜のジャズバーに通っているなんて言えなくて。

『fermata』の客はほぼ常連客ばかりで、静かにジャズを聴きながら、あくまで静かにお酒を飲む人たちばかりが集まる店だけれど。

一歩外に出れば歓楽街。

酔っ払った人たちや怪しげな風貌の人たちが闊歩する、何も知らないコドモは立ち入り禁止な区域だ。

「……いえ。音楽が楽しくなってきたからです。水琴さんのおかげですよ」

清純派の水琴さんにこんな話をしたら卒倒するかもしれない。

そう思い、微笑んで誤魔化した。

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