Raindrop
……知らない名前だけれど、知っていた。

このポストカードの差出人は、あの教会で幸せに微笑んでいた2人。きっとあの結婚式の数日後に新婚旅行に旅立って、そこから送られてきたのだ。



彼女に何があったのかなんて。

あの幸せそうな2人とはどんな関係かなんて、知らなくてもいいことなのだけれど。

でも……。

ポストカードの消印が8月15日だということと、真ん中に破り損ねたような切れ目を見つけてしまっては、気づかざるを得ない。

8月15日……コンクール本選の約一週間前だ。

エアメールなら一週間ほどで届く。

つまり、これを受け取ったのは本選の直前。


彼女にとっては破りたくなるような内容のメッセージだった。

けれど僕たちと一緒にコンクール本選に行ってくれた彼女は、普段通りにふわりと微笑んでいたんだ。

何も気づかせないように、美しく、そこにいてくれた。

そうして僕たちを支えてくれていた。

何でもないような顔をして。


「……誰と間違えているんですか」

握られた手を強く握り返した僕の声は、自分でも驚くくらい低かった。

「ねぇ、水琴さん」

< 176 / 353 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop