Raindrop
再びドアがノックされ、タイムリミットが訪れた。

僕はそっと水琴さんを離すと、力の抜けた手を取り、ソファに座らせる。

それから足元に落ちたトートバッグを拾い、水琴さんの隣に置いた。

長い睫を伏せて俯く彼女に謝るべきか、迷いながらも背を向け、ドアへ向かう。


「……好きになっちゃ、駄目」


ぽつりと呟かれた、今にも消えそうに掠れた声。

なのに、大声で叫ばれるよりもずっと強く、耳の奥に残る声だった。


「みこ、」

振り返り、その真意を問いただそうとする前に、勢いよくドアが開いた。

「先生~、お菓子もってきましたぁ」

笑顔の花音、そして拓斗が現れ、部屋の中の雰囲気は一変して明るくなる。

2人を見る水琴さんの顔にも、ふわりと笑みが浮かぶ。

「ありがとう」

薄い色の髪を掻き揚げながら笑う水琴さんはもう、いつもの水琴さんだった。

ただ。

その膝の上に置かれた両手が。

爪が白くなるほど、強く握り締められていた。




< 249 / 353 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop