Raindrop

長いようで短い一週間だった。

待っていてもそうでなくてもやってくる土曜日のレッスン日。

今日こそは本当に拓斗や花音にいて欲しかったけれど。

先週水琴さんに褒められた花音はよほど嬉しかったらしく、また拓斗を助手にしてお菓子作りに励むようだ。


拓斗と入れ替わりに入ったレッスン室。

息を殺すようにして歩いていくと、ピアノの前で鍵盤に視線を落とす水琴さんの姿が見えた。

「……宜しくお願いします」

平常心を装って、頭を下げる。

「それじゃあ、今日は先週言っていた『エストレリータ』を」

微かに微笑んでいるのが見えるけれど、水琴さんは鍵盤から視線を上げようとはしなかった。

「はい」

僕もそんな彼女を見つめているのは辛い。

軽く息をついて視線を逸らし、ヴァイオリンケースからレディ・ブラントを取り出し、譜面台の前に立つ。

< 259 / 353 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop