Raindrop
「……水琴さん。料理教室のことなんですが」

視線を交わらせないままに、語り掛ける。

「良かったら、ここでやりませんか」

「……ここで? このおうちで?」

「ええ。花音や拓斗からも教えてくれるように頼まれていて。でも受験勉強で時間を取るのが難しくなってきたので……貴女さえ良ければ、一緒にどうですか」

時間なんて、作ろうと思えばいくらでも作れるけれど。

僕たちはもう、2人きりで会ってはいけない。そう思っての提案だった。

「水琴さんの料理下手が知られてしまうことにはなりますが」

くすり、と笑いながら、顔を上げる。

水琴さんは涙を流した後の、潤んだ目で僕を見ていた。

「皆でワイワイやる方が、きっと楽しいですよ」

これは、2人きりでは会えないけれど……それでも、少しでも長く会える時間を作りたいと願う、僕の我侭。

貴女の涙ではなく、笑顔を見たいという、僕の我侭だ。


僕からの提案をじっと聞いていた水琴さんは、泣き笑いのような笑みを浮かべた。

「ありがとう。……お願いするわ」

< 264 / 353 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop