些細なことですが




携帯をしまおうとして視線をさまよわせると、

目の前の座席に座っていた女がこっちを見ていた。


「あ」

「ひさしぶり」

へらっとえくぼを浮かべて、声をかけてきたこいつを俺はたぶん知っている。


「………夏目?」

「佐々木どうしたの
もしかして遅刻?」

「ああ、…寝坊した」

「ばかじゃん」

いきなり知り合いに会ったことと
そんなに仲良くなかったやつに声かけられて
拍子抜けした。

そんな俺を見てあははと口を大きく開けて笑う。



あ、えくぼ



「…いや、お前こそ学校どうしたんだよ
去年からきてねえじゃん」

「わたしにも色々あんのよ」

「…」

「今は休学って体だけど、もう退学するかなあ」

他人事のように笑うこいつ

「へえ…」

俺には関係ないし、突っ込んで欲しくないことは誰でもある。

「聞かないの?」

「俺に関係ねえし」

「ふうん」

さっきとは違う少し悲しそうな安心したような顔をする。

物憂げな表情に伏せた目元、太陽が反射してきらきらと色を変えた夏目に不覚にも緊張する。

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