チョコレートトラップ
思い切り言い返したいのに、

どうしても言葉が

喉の奥に詰まってしまって

出てこない。


『私、ウソタの“彼女”に

 なったつもりはない』


そう言って突き放してしまえば

済むはずなのに、

両腕からじんわり伝わる

ウソタの包み込まれる温もりに、

心の奥が大きく反応してしまっている。


私の“心”と“体”が

まるで別人みたい。


いまだ鳴り止まない鼓動が、

腕を通してウソタに

聞こえてしまっていなければ

いいんだけれど。


「心配してお前のこと

 探しまくってよかった。

 惚れた女を

 ケガなんてさせたくねーし」


それまで私を支えてくれていた

腕をようやく緩めながら、

ウソタが私の耳元でそっと囁く。


今まで一度も感じたことのない

ウソタの甘い響きに、

胸のざわつきが

おさまるどころか

大きくなる一方だ。







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