クランベールに行ってきます
結衣は笑って頷くと、ついでに笑顔のままサラリと告げた。
「それと、さっき言った事撤回。大嫌いじゃなくて、大好きだから」
「な、何を言い出すんだ、おまえは!」
ロイドが目を見開いて、思い切り動揺している。いつもなら額を叩かれるところだろうが、それすらも忘れているようだ。
「あーっ。そういう事だったんですか」
遠くから様子を窺っていたローザンが、突然大声を上げた。
「何が、そういう事だ」
ロイドが不愉快そうにローザンに尋ねる。ローザンはわざとらしく大きなため息をついて立ち上がると、出入り口に向かって歩き始めた。
「ユイさんのところから帰って、なんかロイドさんの機嫌が悪いと思ったら、やっぱりケンカしてたんですね。仲良すぎるのも目の毒ですけど、仲悪いのはもっと迷惑ですから、勘弁してくださいよ」
「こら待て。仲良すぎるって事はないだろう。どこへ行く」
扉の前で立ち止まったローザンは、微笑んで答えた。
「ちょっと医務室に行ってきます。ユイさんに鎮痛剤を処方しますので、三十分くらいで戻りますよ」
そう言ってローザンは研究室を出て行った。ロイドはローザンを見送ると、気まずそうに結衣を見下ろした。
「おまえが妙な事を言うから、あいつに変な気を使わせたじゃないか」
「妙な事じゃないわよ。本当の事だもの」
ロイドはひとつ嘆息すると、結衣の前の椅子を引き、横向きに座った。目を合わさないように、そっぽを向いたまま腕を組み、吐き捨てるように言う。
「ったく。とことんオレの言う事を聞かない奴だな」
「言ったじゃない、できないって。嫌いにはなれないわ。でも日本に帰らないとは言わないから安心して」
結衣の言葉に、ロイドが意外そうな表情で、こちらに視線を向けた。結衣はイタズラっぽい笑みを浮かべ、ロイドを上目遣いに見つめて言う。
「私が日本に帰らないって、駄々捏ねたら困るから、あんな事言ったんでしょ?」
「そんな風に考えていたのか」