クランベールに行ってきます


 ロイドは相変わらず、意外そうにしている。自分の考えが間違っていたのかと、少し不安になって、結衣は恐る恐る問いかけた。

「……違うの?」

 ロイドは目を逸らすと、俯いてひとつ息をついた。

「いや、それもある」
「他にもあるの?」

 問いかけるとロイドは、結衣を一瞥し、再び目を逸らして観念したように、とつとつと話し始めた。

「おまえはニッポンに帰った方がいい事はわかっている。おまえにはニッポンでの暮らしがあるし、両親や友人も向こうにいて、おまえを心配しているはずだ。元々オレが無理矢理、殿下の身代わりを押しつけたんだ。おまえには、ここにいる義理もない。まさかこんなに長引くとは思っていなかったし、事態がこんなに深刻化するとも思っていなかったから、オレも軽く考えていた。おかげで何度も危険な目に遭わせたし、おまえには悪い事をしたと思っている。だから、なんとしても無事にニッポンに帰そうと決めたんだ。なのに……」

 ロイドはそこで一旦言葉を切ると、更に項垂れた。結衣が黙って待っていると、少しして大きく息をつき、再び話し始めた。

「最初、おまえには嫌われていると思っていた。殿下の身代わりを押しつけられてムッとしていたし、なにより最初のキスがマズかったしな。あの後おまえ、怯えてたし」
「……え……」

 必死で隠していたつもりだったのに、全部ばれていたらしい。
 ロイドは少し上向いて、中空を見つめたまま、しみじみと言う。

「言う事はさっぱり聞かないし、触れば怒って抵抗するし、相当嫌われていると思っていた。なのに嫌いじゃないと言われて、ちょっと調子に乗りすぎた」

 そして結衣の方を向くと、何かが吹っ切れたような清々しい表情を見せた。

「おまえがニッポンに帰ると決めたなら大丈夫だ。それが歯止めになるだろう」
「歯止めって、何の?」

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