雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
視界が暗くなったのは、雪が月夜に覆い被さったからだった。
気づいてすぐに顔をあげると、なまぬるい飛沫が頬にかかった。
指で触れると、燃えるような色の液体が先につく。
「……血?」
なぜ血がついたのか、月夜は不思議に思った。
だがすぐに、それが誰のものなのか気づかされる。
あれだけ頑丈だった雪の左肩に、獣の鋭い牙が突き立っていたのだ。
フーフーと荒い息を吐きながら、さらに牙を食い込ませていくイシャナは、魔物の形相で月夜を睨み付けた。
「イシャナ……」
名前を呼んでも、返事が返らないことはわかっている。
それでも、一縷の望みにかけて、月夜はその名を呼んだ。
もしもこの声が届くなら、なんとしてでも助けてやると、だから絶対に諦めるなと彼に教えたかった。
「さて、そろそろ本気でかからぬか? 羅刹天……ああ。ここではあの子の結界に力が制御されておるのか。しかし貴君もこれでは満足に動けまい? その証拠に、肉体についた傷は治癒もままならず、確実に貴君の力を削いでおるぞ」
「雪、お前……」
帝釈天の言葉に、月夜の顔から血の気がひいた。
力の制御というものが、何にどんな影響を与えるのかはわからないが、それが雪の身体に大穴を開けられるほど強力であることだけはわかった。
「……なぜそんな顔をする。怪我でもしたか?」
「怪我をしているのはお前だ……雪」
表情も変えず、凄惨な状況を無視した雪の言葉に、月夜は恐ろしさが募るのを感じた。
イシャナの牙は、ますます深く彼に刻まれていく。
このままでは、いくら魔物といえども無事には済むまい。
下手すれば、死ぬこともあり得るのだ。
――死ぬ? 雪は死ぬ、のか?
そう思った途端、月夜の身体はガタガタと震えた。
気づいてすぐに顔をあげると、なまぬるい飛沫が頬にかかった。
指で触れると、燃えるような色の液体が先につく。
「……血?」
なぜ血がついたのか、月夜は不思議に思った。
だがすぐに、それが誰のものなのか気づかされる。
あれだけ頑丈だった雪の左肩に、獣の鋭い牙が突き立っていたのだ。
フーフーと荒い息を吐きながら、さらに牙を食い込ませていくイシャナは、魔物の形相で月夜を睨み付けた。
「イシャナ……」
名前を呼んでも、返事が返らないことはわかっている。
それでも、一縷の望みにかけて、月夜はその名を呼んだ。
もしもこの声が届くなら、なんとしてでも助けてやると、だから絶対に諦めるなと彼に教えたかった。
「さて、そろそろ本気でかからぬか? 羅刹天……ああ。ここではあの子の結界に力が制御されておるのか。しかし貴君もこれでは満足に動けまい? その証拠に、肉体についた傷は治癒もままならず、確実に貴君の力を削いでおるぞ」
「雪、お前……」
帝釈天の言葉に、月夜の顔から血の気がひいた。
力の制御というものが、何にどんな影響を与えるのかはわからないが、それが雪の身体に大穴を開けられるほど強力であることだけはわかった。
「……なぜそんな顔をする。怪我でもしたか?」
「怪我をしているのはお前だ……雪」
表情も変えず、凄惨な状況を無視した雪の言葉に、月夜は恐ろしさが募るのを感じた。
イシャナの牙は、ますます深く彼に刻まれていく。
このままでは、いくら魔物といえども無事には済むまい。
下手すれば、死ぬこともあり得るのだ。
――死ぬ? 雪は死ぬ、のか?
そう思った途端、月夜の身体はガタガタと震えた。