雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
 封印を解き力が目覚めれば、雪の傷を癒すことも、神に対抗することもできるかもしれない。
 信じられないが、自分には神の資質がある。
 それはいま、帝釈天に狙われていることで、皮肉にも事実と認めざるをえない。
 だが、つぎの雪の言葉は月夜の思惑を打ち消す。

「だが封印は絶対に解くな、ともかくお前はできるだけ遠くへ行け」

 月夜は唖然とした。

「逃げろというのか? お前だけをこんなところに残して……できるわけがない! それに、ボク一人じゃ逃げ切れるはず――」

 不意に雪の手が頬に触れる。
 驚いて言葉を切った月夜は、彼の真っ直ぐなまなざしを見た。

「しばらくでいい。刻が来れば帝釈天がお前を追う意味もなくなる。そうすれば、お前は自由だ」

 その意味は明らかだった。

――ガルナの神が……滅ぶ。

 しかしそれがあとどれくらい、7の月がのぼるまでか、それとも何季もあとなのかわからない。
 その間、ずっと待っていろと云うのか?
 神が滅ぶのを、何もできずたった一人で――。

「そんなのはいやだ。鍵ならボクは持ってない。一人で逃げるくらいなら、ここでボクも戦う!」

 何もできないことはわかっていたが、どうしてもここから――雪から離れるのは嫌だった。
 現実は、魔物となってしまったイシャナと、どのくらいの力を使えるのかわからない帝釈天を相手にしなくてはならない。
 どう考えても、勝ち目はないように思えた。

「いまのお前になにができる? 足手まといだ。さっさと…」

「いやだと云ったらいやだ! 絶対に行かないっ」

 月夜は叫びながら、こみ上げる感情を抑えきれず、瞳を濡らした。
 胸が苦しかった。
 無力な自分に腹がたつ。
 力があれば……力が欲しい!


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