雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
「…早まるな。これくらいで死なん」
雪の声がはっきりときこえ、月夜は耳を疑いながらも顔を上げた。
「俺がお前のものに…だと? 面白いことを云ってくれる」
相変わらずどんな状況でも尊大な物云いの雪に、いまは腹を立てるどころか、胸がいっぱいになった月夜の目から、堰を切ったように涙が溢れた。
「お前が云ったんだ、帝釈天。不意をついて反撃に出るつもりか、とな」
「なん……だと?」
掠れた声が、明らかに驚愕を示していた。
帝釈天は、己でも信じられないといった表情で、自分の身体からほとばしるものを見つめる。
あの一瞬の攻撃から月夜を庇うと同時に、雪は帝釈天に一撃を放っていたのだ。
目にも止まらぬ速さで、それは帝釈天さえすぐには気づかぬほどに。
「……さすがは天界にも恐れられた鬼神、抜け目がないの。本当に不意をついて、わたくしの身体に傷をつけてくるとは……」
「油断したか? お前らしくもないな」
二人は互いに殺気を放ちながら、しかしその表情は不敵に見えた。
まさかまだ戦うつもりなのか?
人間であれば、立っていられないほどの傷を負いながら、なお対峙するその姿に月夜は震えた。
――このままでは、本当に死んでしまう…!
「貴君もであろう。急所にわずか、とどいておらぬぞ」
ふたたび己の手を構えた帝釈天に、舌打ちした雪をすり抜けた月夜の身体がぶつかった。
武器もない自分にできることなどないのはわかっている。
いま使える式もない。
素手でさえ、きっと神にとっては、虫に刺された程度にも感じないだろう。
それでも。
それでも、これ以上守られるだけではいられなかった。
せめて攻撃を止めさせることが出来たなら。
雪の声がはっきりときこえ、月夜は耳を疑いながらも顔を上げた。
「俺がお前のものに…だと? 面白いことを云ってくれる」
相変わらずどんな状況でも尊大な物云いの雪に、いまは腹を立てるどころか、胸がいっぱいになった月夜の目から、堰を切ったように涙が溢れた。
「お前が云ったんだ、帝釈天。不意をついて反撃に出るつもりか、とな」
「なん……だと?」
掠れた声が、明らかに驚愕を示していた。
帝釈天は、己でも信じられないといった表情で、自分の身体からほとばしるものを見つめる。
あの一瞬の攻撃から月夜を庇うと同時に、雪は帝釈天に一撃を放っていたのだ。
目にも止まらぬ速さで、それは帝釈天さえすぐには気づかぬほどに。
「……さすがは天界にも恐れられた鬼神、抜け目がないの。本当に不意をついて、わたくしの身体に傷をつけてくるとは……」
「油断したか? お前らしくもないな」
二人は互いに殺気を放ちながら、しかしその表情は不敵に見えた。
まさかまだ戦うつもりなのか?
人間であれば、立っていられないほどの傷を負いながら、なお対峙するその姿に月夜は震えた。
――このままでは、本当に死んでしまう…!
「貴君もであろう。急所にわずか、とどいておらぬぞ」
ふたたび己の手を構えた帝釈天に、舌打ちした雪をすり抜けた月夜の身体がぶつかった。
武器もない自分にできることなどないのはわかっている。
いま使える式もない。
素手でさえ、きっと神にとっては、虫に刺された程度にも感じないだろう。
それでも。
それでも、これ以上守られるだけではいられなかった。
せめて攻撃を止めさせることが出来たなら。