卓上彼氏
漫画の最後の方のページには、漫画のラストを描いているときのヨクの思考や心情がたくさん綴ってあった。
ヨクは、私との思い出を一つ一つ思い出していた。
『そもそも、こんな平面上の俺が感情を持ったのは奇跡だったのかな。
どんな仕組みでこうなったのかはわからないけど、この奇跡が無かったら俺はみかみに出会えなかった。
そして、みかみはこんな俺を好きになってくれた。
家族もいないし、友達もいないし、自分のことを自分が知らない、何一つ持っていない俺なんかを。
みかみは、俺にたくさんの感情をくれた。
指輪だってくれた。
俺はそんなみかみとこの先ずっと一緒が良かったけど、もしこのまま俺がみかみの傍にいたらみかみは幸せになれない。
俺とは、結婚もできないし、温かい家庭を築くことだってできない。
だから俺は、みかみには現実の世界を見るようにしてもらいたい。
俺はみかみに伝えきれないくらい感謝しています。
ありがとう、
こんなに愛してくれて、ありがとう』
「……そろそろ七時だ。最後の大仕事!」
ヨクはパソコンを開き、ふれあいタワーの管理室のパソコンの回線に侵入した。
『みかみ……これが俺からの最後のプレゼントです』
丁度七時になった瞬間、ヨクはエンターキーを押した。
この瞬間、きっとあのふれあいタワーはハート模様に光り輝いたのだろう。
彼はふーっと息を吐いて伸びをすると、左目から一筋の涙を流した。
「あとは俺を消すだけ」
ヨクはまたしばらくパソコンをいじったかと思うと、ピタリと動きを止めた。
『このデリートキーを押せば俺のデータは全て消える』
ヨクはゆっくりと瞳を閉じた。
「みかみ、今まで本当にありがとう。
デリートしたら、俺の記憶はどうなるかなんてわからないけど、みかみのことは忘れない。絶対忘れない。
みかみに出会えて、幸せでした。
大好きだけど、
愛してるけど、
愛してるから
――――バイバイ」
そこで、漫画は終わっていた。
「ヨクっ……」
私はまるでパソコンがヨクかのようにパソコンに泣きついた。
うわぁんうわぁんと、まるで子供のように泣いた。
泣いて泣いて泣いて、涙が枯れるまで泣いた。
どうしようもない悲しみがこみ上げてきて、ただ泣くことしかできなかったのだ。
どれほど泣いただろう、私は泣きながら、ふとヨクの言葉を思い出した。
すると自然と涙は止み、心に整理がついたような気分になった。